2012年 08月 28日
恵比寿・東京都写真美術館で現在、 「自然の鉛筆 技法と表現」という展示が行われています。 写真の技術史の変遷を、著名な作品を通して見ることができます。 2012年9月17日まで。 以下、初心者向けの鑑賞ガイドです。 たくさんの展示作品があり、すべてをじっくり見るのは大変ですので、 特に以下の作品を見ることをおすすめします。 【ダゲレオタイプ】 フランスで発明された技法。紙ではなく銀板写真。 ポラロイドのように1枚もの、複製できない。シャープな画像。 特許をとらなかったので広く普及。 【カロタイプ】 イギリスで発明された技法。 カロタイプ(紙ネガ)から複製を作れるようになったが、シャープな画像ではない。 特許をとったので、普及しなかった。 :タルボットの作品がたくさん展示されています。 【鶏卵紙】 銀板ではなく、紙でもシャープな画像になり、ネガから複製可、広く普及。 :ルイスキャロル(アリスを書いた作家)の作品。 :ウジェーヌ・アジェのパリの写真。 【ピクトリアリスム(絵画主義)】 写真が大量複製されると価値が下がるので、絵画のように1枚ものの表現を目指す。 :アーヴィング・ペン(プラチナ印画紙) 【印刷のはじまり】 :ナダール(フランスで大流行したポートレート写真館) そして、カーボン印画紙、ゴム印画紙、オイル印画などを経て、 ゼラチンシルバープリントという技法になります。 20世紀の著名なモノクロ写真のほとんどが、 このゼラチンシルバープリントという技法で、 たくさんの名作があります。 【ゼラチンシルバープリント】 :マン=レイ 実験的なプリント方法のパイオニア。前衛アート的。 写真が手軽なものになると、何でもかんでも記録する作業が始まります。 建物ばかり、道路ばかり、そして人物ばかり等が、ひたすら記録撮影されました。 ドイツでこの資料的撮影が多く行われ、 その中で、 :アウグスト・ザンダーは、大量の人物撮影をおこないました。 ヨーロッパで始まった写真表現ですが、アメリカでも広まります。 :エドワード・ウエストン :アンセル・アダムス が、美しいモノクロプリント技法を完成させます。 特にアダムスは、ゾーンシステムというプリント方法を編みだし、 プリント作業を芸術にしました。 展示されている、ヘルナンデスの月は、最も有名な作品です。 (1980年代、世界で最高値で取引された写真) 開拓荒野の墓地の夕方、月の出、がアメリカ人の琴線を揺らしたのでしょう。 今回の展示で、1枚と言われたら、是非この写真だけでもじっくり見て下さい。 黒からグレー、白のグラデーションが大変美しく、 また印刷では黒部分は、べた黒になってしまいますが、 このプリントを見ると、黒の中にうっすらと雲が写っている部分もあり、 息をのむ美しい作品です。 写真が高価なものでなくなると、被写体は庶民に向けられます。 :ウォーカー・エヴァンズなどが、日常を撮りだします。 :ロバート・フランクの「映画の初日、ハリウッド」 この写真を見て、どうしてピントが後方の人物なのか考えてみましょう。 :ウイリアム・クライン、ダイアン・アーバスなどが、 アメリカ社会の闇の部分を撮影するようになります。 ポートレートや美しい風景を絵画のように切り取っていた表現にくわえ、 新しい視点が生まれます。 :ドゥェイン・マイケルズは、ストーリーフォトを撮ります。 写真が事実の伝達作業から、離れていきます。 :ブルース・デヴィットソンの写真、1961年にニューヨークで、 白人女性と黒人女性がランチカウンターに並んでいる写真は、 当時物議をかもしました。 モノクロ表現の美しさを活かした作品です。 :リチャード・アヴェドンの、ディオールのスカートの写真、 :アンリ・カルティエ=ブレッソンの自転車の写真、 これらはフィルムの撮影感度が上がり、シャッター速度を写真家が、 コントロールできるようになったから生まれた作品です。 :エーリッヒ・ザロモンは、多くの政治家を隠し撮りした写真家です。 カメラの小型化、フィルムの高感度化によりできたことです。 :森山大道は、従来の美しいプリントの反対、粒子を荒らす技法です。 :杉本博司「劇場」 この作品は、上映中の映画館のスクリーンを、長時間露光した写真です。 スクリーンは露出オーバーで真っ白になり、そこからの光で、 劇場内の様子がわかる、美しいプリントです。 :ユーサフ・カーシュは、カナダのポートレート専門の写真家です。 この作品は、イギリスの首相・チャーチルを撮影したものです。 シャッターを押す直前にわざとチャーチルの葉巻をうばいとり、 むっとさせた表情をとらえました。 大型カメラを使って撮影した、大変美しいプリントです。 :林忠彦「太宰治」 大変有名な作品で、狭いバーの中で、椅子に座る太宰を撮るのに、 引きがないので、トイレのドアをあけて、そこから撮影したそうです。 :植田正治 鳥取砂丘を「自然のスタジオ」と呼び、 数多くの美しい作品を作りました。 :東松照明「11時02分」 これは長崎原爆により止まった時計の写真です。 【カラーの部】 カラーは大きく分けて二つにわかれます。 ・スイスのチバガイキーが発明した、ポジフィルムからのプリント。 スライドフィルムから、印画紙にプリントする方法です。 特徴は、派手な発色、プリント表面が光沢があり、 耐久性にすぐれていることです。 :白川義員「ヒマラヤ」 ポジプリントならではの、美しい赤。 :ポール・フスコ「ケネディの葬送列車」 JFKの遺体は、ニューヨーク、ワシントン間を鉄道で運ばれて、 その区間ほとんどの場所に、見送る人々がいたそうです。 それを撮影した作品。 カラーのもう一つは、コダックのタイプCと呼ばれるもので、 ネガフィルムからプリントを作る方法。 デジタル以前に、多くの人々が撮っていたフィルムプリントです。 チバガイキーのポジプリントに比べて、 やわらかい自然な色調です。 コストも安く、世界中で普及しました。 70年代に、 :ミズラック :エプシュタイン など、ニューカラーと呼ばれる作家が登場します。 ここで取りあげた以外にも、素晴らしい作品がたくさん展示されています。 技法の年代順にそった展示ではありますが、 どれも著名な作品なので、テクニックのことばかり考えなくても楽しめるものばかりです。 技法の歴史は、 最初は、イギリス vs フランスでしたが、 その後は、ヨーロッパ vs アメリカになり、 戦後はアメリカの作家が写真界を牽引していきます。 写真史をふりかえると、 技術があって、そこから表現が産まれてきました。 そして、20世紀になると、表現のために技術が産み出されたりもします。 そのような流れを確認できる、大変面白い展示でした。 今回は、フィルムなどの感材進化の歴史を検証する展示でした(9/17まで)。 次回(9/22から)はカメラとレンズの進化を振り返る展示だそうで、 今から楽しみにしています。 :->
by sekigawa88
| 2012-08-28 09:39
| exhibition
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